母川回帰

ダウン症の人たちのためのプライベートアトリエ、元アトリエ・エレマン・プレザン東京代表、佐久間寛厚のブログです。日々の制作の場で人間の心と創造性の源を見つめています。

7冊目


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7日間のブックカバーチャレンジリレー。

最終日です。

7冊目はやっぱり美を廻っての話を。

 

美とは何か。

美しいってどんなことか。

 

坂田和實さんほど、美に真っ直ぐ向き合って生きて来た方を、他に知らない。

誰かが決めた基準ではなく、知識や権威に寄り掛からず、自らの眼を、心を研ぎ澄ませて判断する。それは、多くの人が想像するより、遙かに厳しく、遙かに困難で、遙かに孤独なこと。

 

坂田さんの真似をする人は多いし、美味しいところだけ持って行く人もいる。

だけど、所詮はまがい物と本物との間には途轍もない溝がある。

 

坂田さんの選ぶ物は、坂田さん自身のように素朴で、削ぎ落とされていて、嘘や誤魔化しがない。本当に美しいものはシンプルだ。

 

作為の醜さ、虚勢やはったりばかりの偽物。

それらに対しての坂田さんの目は厳しい。

 

固定観念や言葉に酔っているだけの人達には、いつまで経っても美は見えて来ない。

 

民芸運動のこと、アウトサイダーアートや、アールブリュットのこと、坂田さんとは随分話した。言葉や概念だけで、目の前に美しい物がないなら、そんなのは単なる頭の遊びに過ぎない。そんなことを語り合えたことは、とても嬉しかった。いや、それ以上にもっともっと本質的な、生きること、美に向き合うこと、対話だけでなく、その佇まいで、教えて貰ったことは沢山ある。

 

頭でなんとかしようとする、人間の愚かさ、浅はかさ、ズルさ。頭で美を捉えることは永久に出来ない。

 

坂田さんの選ぶもののように、坂田さんと言う存在は美しい。

 

美しいものを見つけるためには、澄んだ目を持たなければならない。美は純化された魂によって初めて見えてくるもの。美術館に飾られたものが綺麗だとか、そんな安直な話では無い。それはどう生きるのか、と言う命の問題と直結している。

 

制作の場へ向かうとき、作家もスタッフも、真っさらな心を持って、初めてそこに立つような気持ちで挑む。工程の全てに不純物が入り込まない時、そこに紛う方無き美が生まれる。あまりに自然に。