母川回帰

ダウン症の人たちのためのプライベートアトリエ、元アトリエ・エレマン・プレザン東京代表、佐久間寛厚のブログです。日々の制作の場で人間の心と創造性の源を見つめています。

やって来たこと

台風が接近。昨日はいつの間にか寝てしまった。この場所でお会いする方々は本当に様々。沢山の方が日々、主にご相談に来る。外では恐らく話せないようなこと、出せないような悩みや、想いを抱えて生きている人達が多くいる。制作の場ももちろんだけど、東京にはこう言う場所が無ければならない、と実感する。そして、各地にそんな場所が必要だろう。と、ここまで書いて来て、突然ですが言おうと思うことがあります。人間には誰しも1番最初に見たかった景色があります。見たかったけれど、見られなかったり、見たことすら忘れてしまったり、充分にその景色が刻まれていないことが、実は様々な生き方や心の問題の元にあります。僕が制作の場に立つ時も、トークに挑む時も、個別の相談をお受けする時も、その景色を見て貰うことに集中しています。組織や、システムや制度や、政治や、あれこれは、人間がこれだけ多くなれば必ず必要となるものです。ただそれだけでは、とてもとても人の心に響きません。たった一人のその人に向き合う、人の心を見て行くとはそう言うことなのです。そこでは合理性や利便性は脇に置くしかありません。唯一無二のその存在の芯へ。その時、人は立ち上がり、よし生きよう、と思うのです。アトリエにも制作の場にも、たった一人の人間に向けた言葉にも、マニュアルはありません。良い物は心をかけ、時間をかけ、手間をかけて、出来上がる。物ですらそうです。生きた人間の心が、効率良く育つはずがないのです。
16で信州へ。そこで様々な心の形を持った人達と共に過ごし、唯一無二の存在としてのその人が輝くとはどんなことか、徹底的に考え、関わって来ました。20年とちょっと前に東京に出て来ました。ダウン症を持つ人達の制作を見て来て、彼らが本来持つ、優れた感覚を100パーセント発揮出来る場を目指して来ました。そんな中で生まれた作品たちを通して、彼らの豊かで調和に満ちた文化を社会へ発信してきました。今あらためて、ずっと一つの道を歩んで来たな、と感じています。一人の人へ、他の誰でもないその人へ向けて、その生命が輝くように。最初に見たかった景色を、見た、見られた、と実感して貰えるように。制作を通して出会うことが出来なかった人達や、トーク企画に来られない方、お会い出来ない方も沢山います。遠くでブログを読んでくれている方々も。本当は直接お会いしなければ大切なことは伝えられないけれど、でも僕の書いたブログで救われたと言って下さる方もいます。だから少しでも、何かが伝わればと書いています。この世界で最初に見たかったもの、それは、みんなが笑っている景色、なのです。