母川回帰

ダウン症の人たちのためのプライベートアトリエ、元アトリエ・エレマン・プレザン東京代表、佐久間寛厚のブログです。日々の制作の場で人間の心と創造性の源を見つめています。

鳥たちの声

この前、ある場所で心の病気を持った方に会った。久しぶりに、あー、やっぱりかぁ、と思ったのだけど、僕が隣に座ったら、色んなことを話し出して、しばらくそうして居るだけで、表情が変わってきて、元気になっていた。僕はこう言う時、いつも何もしていない。ふと思った。10代で様々な障害を持つ人たちと出会って、何とか、何か出来ないか、少しでも、そのためには何だってやろう、ってそんな気持ちを持ったけれど、結局何も出来ることなんてなくて、でも、そこに居れば、一緒に居れば、何とかなることだってあるんだよ、って、苦しんでいる人達の方から教えて貰った。こう言う風に居てね、ってことを。もう毎日のように今日がギリギリ、明日は死んでしまうかも、って言う切迫感が漂っていた人がいた。僕らは同じ屋根の下にいたから、それもその人だけではなくて、本当に何人も厳しい状況の中にいる人達が一緒だった。僕はなるべく彼女と一緒居るようにしていた。その子は両親が特種な業種の方で感覚を偏った形で酷使しなければならない仕事をしていて、僕はその歪みが彼女へ行ったのだと感じていた。ある日、畑の前で話すこともなくなって、感情の揺れにも疲れ果て、しばし茫然としていた。僕にはもうただそこに居ることしか出来ない。彼女はいつになく穏やかな表情になって、微笑む。僕の方へ向くと、「佐久間くん、優しいから、みんなを助けてあげることが出来るよ。」と。これまで文脈がしっかりした言葉を話すことがなかった彼女が急にそう言った。しばらくすると僕の方にすーっと鳥が飛んで来て肩ににとまった。それから2羽、3羽と。鳥はまるで木にでもとまるかのように、全くなんの警戒心もない。僕も何だかこれが自然な気になっていて、その時は少しの警戒心も起きなかった。僕らの周りには沢山の鳥達がいた。心を通わせ合って色々話せたけれど、どんなことを話したのか全く記憶にない。でもその情景は強く心に残っている。多分それから、僕が人と会う時、心を開いて無防備であること、がより自然になって行った。みんなとの出会いが僕を創っている。